山の中腹に取り残された、日本屈指の美麗廃墟。
高級ホテルとしては不運な歴史を刻んだ。昭和ヒトケタ建造、まもなく戦争で営業中止。
戦後営業は再開されたものの、あまり訪れる者もいなくなっていた。
ホテル以外の用途に転用されたものの、まもなく閉鎖された。
ホテルカウンターとして使用された年月は長い昭和史のほんの一部。
瀟洒な建築は多くの人の目に触れる機会はなく幕を閉じた。
皮肉なことに注目されるようになったのは閉鎖後。
もう殆どの内装は残っていないが、わずかに残った留守番が語りかけてくる。
アールヌーボー様式で統一されたが、その後持ち込まれたものが混じる。
丸窓はロマン主義。光は漏れ出す物という概念。
後期の転用時には使われなくなっていた厨房。
この二人はここでも百年戦争を続けている。
脱出しそこねたブレーカーは、まだ建物と臍の緒が繋がったまま。
随所に曲線構造が残り、優美さを偲ばせる.
スタンドバーで酔いしれた昔。デンキブランとニッカの王国。
静かな空間で窓の外を見ると、日だまりの中だけの時間があることに気が付く。
浴室の窓も半円。
浴槽も半円。曲面が空間把握を鈍らせ、心地よい混乱で落ち着かせる。
おまけ
外部にMY花壇という一角がある。
庭園のような作りだったのか。
今はもう何も当時を透かし見る手掛かりはない。
ここにだけ残る空気を満足するだけ吸ったら、帰る事にします。
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